公開: 2021年10月29日
更新: 2021年11月1日
日本の雇用制度では、終身雇用と年功序列の2つの制度が基礎となっている。このため、従業員の給与は、年功によって大きく左右される。企業に長く勤務している従業員の方が、勤務期間が短い従業員よりも高くなる。また、終身雇用の制度を採用しているため、多くの従業員は、入社時に担当した業務と,る程度の年月を経過した後で担当している業務には違いがあることが多い。
終身雇用の場合、高等教育で職務に直接関係する専門を学び、新入社員として入社後、その専門に関係する業務を担当している従業員の業務遂行能力は、自分が高等教育で学んだ専門とは全く異なる分野の職務に従事する、企業での業務経験の長い従業員の業務遂行能力に劣ることが予想される。それでも、企業に入社してからの年月が長い従業員は、年功序列の制度に従えば、経験の浅い従業員よりも高い給与を得ることができる。
このことは、家庭の生活を維持し易くできる。年齢の若い人々は、生活のための支出も少なくて済むからである。特に、給与を生活給と言う考え方に基づいて考える日本社会では、若い人々の給与は低く抑えられ、年齢と共に給与は高くなってゆく。このため、給与は仕事の内容や従業員の能力では決まらない。つまり、仕事に対して給与が決められているのではないのが、日本的雇用制度の特徴である。
このような雇用制度では、従業員(被雇用者)は、企業間を移動(退職し新しい企業へ転職)すると、給与が低下するため、経済的な不利益が生じる。つまり、転職しにくい社会になる。A社で20年間ある仕事に従事していた人が、B社に転職して、同じ仕事に就くと、B社の社員で5年間その同じ仕事に就いている人と、ほぼ同程度の給与しか得られないからである。このため、社会全体としては、雇用の流動性の低い社会となる。
その場合、企業側の理由で、ある従業員を解雇すると、その従業員の次の仕事がなければ、その人は生活ができなくなる。このことを考慮して、日本の裁判所は、企業の理由による従業員の解雇を、簡単には認めない。つまり、企業は従業員を解雇できないのである。そのため、企業は、終身雇用の制度を利用して、従業員の能力や知識とは関係なく、従業員の移動を命じることとなる。これは、個人の能力を活かす意味でも、社会全体にとっては、不利である。
このような雇用の問題を考慮して、日本政府は、雇用の流動性を高めて、低成長産業分野から高成長産業分野への労働力の移動を可能にするため、「同じ仕事であれば、同じ給与にすべき」とする同一労働同一賃金制度への移行を推進しようとしている。これによって、日本社会全体の労働生産性を高めることを狙っている。
濱口桂一郎著、「日本の雇用と労働法」、日経文庫(2011)
大場 充著、「ソフトウェア技術者: プロの精神と職業倫理」、日科技連出版(2014)